#16 ディスコ 『New York』 | かふぇ・あんちょび

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このカフェ、未だ現世には存在しません。

現在自家焙煎珈琲工房(ただの家の納屋ですけど…)を営む元バックパッカーが、

その実現化に向け、愛するネコの想い出と共に奔走中です。

 まず最初の関門は、セイラのくれたポケベルの番号を使いこなすことであった。
日本で貧乏学生だった僕は、このポケベルというやつの経験がなかった。
しかも中国のそれは、番号にかけてみると、なんと男の交換手?が出るのである。

綺麗な異国の女性への連絡である。
ドキドキしながら番号を押したら、ポケベルのはずなのに、しかも録音でない図太い男の声でなにか訊いてくるので一度目はあわてて切ってしまった。

そのおっさんにこちらの名前と宿の電話番号を伝えると、折り返し向こうから電話がかかってくる というしくみらしい。
それにしてもなんてシステムだろうか。

 これだけの事を理解するまでに、僕は交換手のおっさんとしどろもどろの会話をし、英語をしゃべるフロントのお姉さんの助けまで借りねばならなかった。
ピシッとホテルの制服を着て、いつも固い顔をしているフロントの若い女性にも、いきさつを根掘り葉掘り尋ねられ、

「へぇー、ディスコで女の子と知り合ったの?やるじゃない。
中国語で、君の瞳は綺麗だね ってなんていうか教えてあげる。」

と、からかわれ非常に格好悪い思いをした。

そうしてなんとかコンタクトをとり、彼女は通訳になるために上海で英語を学んでいる妹を、僕は隣のベッドの遊び人レイモンドを連れて行くということで、第2ラウンドが始まった。

 さすがに通訳志望なだけあって、妹の英語力はなかなかのものであった。
今回はレイモンドもいるし、大音量のディスコでも4人の会話はスムーズに進行した。

妹は学校に通うかたわら、レストランのウエイトレスのアルバイトをしているらしかった。
そこでの時給は、4.72元だという。
…50円くらいか。
当時の上海と日本のお金の価値の差は、10倍くらいということになる。

ウエイトレスの時給 4.7元(50円)・・・500円
麺1杯 3元(33円)・・・330円
ディスコ 40元(440円)・・・4400円
宿泊費 50元(550円)・・・5500円

まあ、つじつまが合わなくもない。

僕が日本で焼き鳥屋でアルバイトしていた時の時給は、650円だったよ。
で、ラーメンが一杯400円くらいする。
と言うと、高収入に思えても出費も高く、別に生活が楽な金持ちという訳ではないらしいと解ってくれたようだ。

 もうすぐ常州に帰るの というセイラに、実は常州にはちょっとした知り合いが住んでるんだ というと、じゃあ遊びにおいでなさいよ と今度は実家の電話番号を教えられた。
そう、なんたる偶然か、長崎ー上海の船で出会った研修帰りの宋中さんの住むのも、その常州なのである。

こうして、あきれるほど細い腰に手を回し、ゆっくりとしたチークを踊りながら、僕の次の目的地が決定したのであった。