#17 江南の春 | かふぇ・あんちょび

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このカフェ、未だ現世には存在しません。

現在自家焙煎珈琲工房(ただの家の納屋ですけど…)を営む元バックパッカーが、

その実現化に向け、愛するネコの想い出と共に奔走中です。



 まあもっとも、実際には僕が上海周辺の江蘇省、淅江省に小旅行をしたのは6月の梅雨の時期であったが。

上海から2、3泊の旅程で、杭州、揚州、常州などの周辺都市を訪ねた。

中国において、長距離バスや鉄道の切符を買うというこの経験も、初めのうちは生易しいものではなかった。
駅やバスターミナルにある切符売り場の窓口にはものすごい数の群集がひしめき合い、そこには列を作って順番を待つという概念が存在しないのである。
初めは皆の勢いに圧倒され、行儀よくぽつんと立ち尽くしていただけであった。
が、外国人が切符を買えずに困っているからなんとかしてやろう、的な手助けがあるわけもなく、いずれは意を決して肘鉄をくらいながら窓口へのバトルに参加せねばならない。

窓口の係員はこの大混乱状態を一日中捌かねばならない訳で、機嫌のよかろうはずもない。
こちらの中国語が判別しにくいと、『ない!』の一言で片付けられ、次の客に押しのけられてしまうのである。
押し合いへし合いをしている間にまわりのおっさん達と話をして僕の目的地を理解させ購入の際口添えをしてもらったり、ノートに漢字を並べ窓口に押し込んで読んでもらったり、ありとあらゆる努力をした。
中国語の下手であったあの頃の事を思い出すと、今でもうんざりする。

それでも、訪れた近郊の町はそれぞれに上海と違った趣きがあり、楽しい旅であった。
苦労して乗り込んだ車中でも、いろいろな人と巡り合うことになる。
だいたい僕は、目的地よりも移動に旅の醍醐味を感じるタイプの旅行者でもあった。